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それは高雄より2年後に入社してきた原田康邦だ。
入社当初から原田は覇気がなく、情熱の塊のような高雄には影か幽霊かと原田を馬鹿にする向きがあった。
しかし今となってはどちらがどちらか分からない程に高雄と原田は社内で薄い存在となっていた。
その原田が最近変わった。
目の色が違う。
言葉遣いも、歩き方も、その背中から発せられるやる気の塊のような様に、高雄は昔の己を感じた。
まるで自分の生気を原田に吸い取られたようだと一瞬頭を通過したのだが、それにはタイムラグがあり過ぎる。
ましてやそんな方法がどこにあるのかと、高雄は己の考えを愚かだと否定した。
それでも原田の急な変貌は全てに頓着なくなってしまった高雄でも何故か気にかかり、何かにつけては原田を観察するようになった高雄がいた。
そんな日が続いたある日。
高雄が自販機の前で何を買うか考えていると、その隣に原田が並んだ。
「中野さん、もし決まってなければ先にいいですか?」
「ああ……」
高雄が返事なのかどうか分からない小さな声をもらすと、原田はそれを返事と受け止め、すぐに自販機に金を投入し、迷う事なくボタンを押した。
ガコンと大きな音を立てて落ちたコーヒーは、かなり甘めの物だった。
なんとなしにそのコーヒーを見ている高雄に気づき、原田は話し始めた。
「以前はブラックを好んで飲んでましたが、最近頭の回転が調子よくて、その分糖分が欲しくなる気がするんですよ」
『仕事をこなす量が多くて、その分頭を使うから…』
以前の高雄もよくこんな事を呟きながら甘いコーヒーを買っていた。
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