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さしてどうでもいいような内容だが、高雄は気になった。
原田のその言葉の裏に、以前は同じようだったけれど、今の自分と貴方は違うんだとそんな優越感があると感じずにはいられなかった。
面白くないと思った高雄だが、悦に入っている人間の口の軽さは己の過去の経験で知っている。
その通りだと言わんばかりに頭を縦に振ってみせた。
「いやあ、本当に最近の原田くんの仕事ぶりには感嘆するよ。俺の方は年のせいだか自分を過信してただけなのかなんとも調子が悪くて、情けない限りだよ」
相手を持ち上げ自分を落とす、高雄のわざとらしい発言も今まで虐げられる人生だった原田には経験値の無さから素直な褒め言葉として受け止められた。
自分の調子のよさを認識しているが故の短慮さなのかもしれない。
機嫌をよくした原田は更に口が軽くなる。
いいや、これも己を褒め讃える言葉を更にもらう為の前振りなのかもしれない。
「俺なんて以前の中野さんと比べたらまだまだですよ。これからは今よりもっと頑張りますけどね」
言葉の端々に今の高雄には勝っていると込められているのに高雄は気付いているが、それに対して自分がどう切り返すべきか高雄には分かっていた。
「いや、確かに以前の俺は今よりはましだったように思うけれども、最近の原田くんと比べられる程ではないさ。飛ぶ鳥を落とす勢いとは正に原田くんのためにある言葉だよ」
「いや…そんな……でも、そうですかね?」
原田の顔が照れながらも待ってましたとばかり口角が上がった。
分かりやすい男だと、高雄は心の中で独りごちた。
聞くなら今だと高雄は思う。
「何か、秘訣でもあるのかい?」
単純な男だと馬鹿にしたい気持ちを綺麗に隠し、縋るように弱々しく高雄は言った。
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