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飲みに行く誘いを原田が断らなかった時点で、高雄には勝算が見えていた。
原田本人だけが知らないのだが、酒に酔った原田の饒舌さは見事と褒めたくなるほどだった。
そんな訳で課内の人間が原田の過去の人間関係から実は誤魔化した社内での失敗談まで知っている。
仕事での失敗は日を改めて追及するべきものであるはずが、それはそれで今までは処理はされているし、下手に追及してそれ以降飲みの席に来なくなってもっと大きな失敗を隠し通されるよりはいいだろうと、ふざけているのか、器が大きいのかよく分からない上司の取り計らいで無いものとされている。
そんな原田との約束の日はあっという間に今日となり、話を聞きたい高雄は原田がより話しやすいようにと程々にざわつく賑やかな居酒屋を選び、腰を据えた。
今日も酔い、その口が滑らかになっていく原田の様子に原田に気付かれないよう思わずほくそ笑む高雄だった。
原田がすっかり出来上がり、これ以上酔わせると饒舌を通り越して無口になって寝てしまうようになったのを見計らい、高雄は聞いた。
「それにしても原田くんが羨ましいよ。仕事の調子もよくて、元気もいい。それが神様からのご褒美だって言うんだから、その謙虚さがまた憎いねぇ」
自分も酔っているのだと演技をする高雄の口調に原田は眠い目をこすりつつ笑った。
かなり気をよくしたらしい原田は呟いた。
「いやぁ、だって本当に神様からのご褒美なんれすって。そうとしか言いようがないんすよ、あの虫屋……」
『あのむしや…』
聞き慣れない言葉は高雄の脳裏で形を成さなかった。
けれど、そこで言葉を隔てては原田が我に返ってしまうかもしれない。
それを恐れた高雄は自然な相槌を打つ。
「うんうん、それで?」
「…あ?…ああ…突然目の前に…ねぇ…虫屋があらられて…」
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