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◇
カズトにとって本当の地獄の日々が始まった。
初めの一年は劇的な後悔と自問自答の毎日だった。なぜサチが死ななければなかったのか。答えが返ってくることはなかった。
医者からも警察からも死因は事故死とだけ伝えられていた。自宅にて酸素系洗剤と塩素系漂白剤を同時使用し発生した塩素ガスを吸引したことによるもので、遺書は残っていなかったため自殺のセンはないとのことだった。
そんなわけある筈がない。カズトは現実を受け入れられなかった。結果、ありもしない架空の殺人犯を仕立て上げ、その正体を明らかにすることに時間を割いたこともあった。
当然、新事実が浮かぶ筈もない。全てはカズトの妄想であるからだ。怒りの矛先はブーメランの要領で、終いには命をつなぎとめた自分に返って来るのだった。彼はありもしない犯人を妄想することを止めた。
「どうして俺が助かったんだ」
やけに広く感じる間借りしたアパートの一室で、カズトは気付けばいつもその言葉を口にしていた。涙は枯れ果ててしまっていた。
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