幸ある未来の入手法

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 あの時、せめて手術を数時間ずらしていたら。慌てずにサチを病院に呼んでさえいれば。  人は弱ると“たられば”を語り現実逃避に走るものだ。カズトは実直で且つ精神も軒昂であったが、それはひとえにサチという支えあってのもので、支柱が外れてしまうと途端に建造物が脆くなるように、彼の精神は見るも矮小なものと成り果ててしまった。  生活は荒み、一時は酒を手放せないような状況に陥ってまた一年が過ぎた。  あのメールさえなければ。カズトはいつも思う。  あのメールさえなければ、もしかしたら手術を即決しなかったかもしれない。サチの了承のもと手術を行い、術中にサチは自分のそばにいただろう。そうすれば、サチは死なずに済んだのだ。  全てはあのメールのせいなのだ。あのメールを送った俺自身の……。 ある日、何度目かのそんな自問自答の中で、カズトはある考えに思い至った。あのメールは他ならぬ十三年後のカズト自身からのものだった。そう仮定すれば、現在のカズトにも可能な筈なのだ。過去へ干渉するメーリングシステムを構築することが。  そして、過去の自分に、つまり手術前のカズトにサチが死なないような方策を授ければ、上手くいくとこの時間軸に改変が起こりサチが生き延びた未来へと現実が再構築されるかもしれないのだ。
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