幸ある未来の入手法

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 むくむくとカズトの内に力が湧いてきた。確かに冷静に考えれば馬鹿げている。しかし、どのみちカズトにはその可能性にすがる他なかった。  死者を蘇らせるという倫理的にも道徳的にも大それたことを現実に起こすには、馬鹿の一つや二つをやらかさないといけないような気がしたのである。  カズトはかつて技術開発部にいたとき以上に、研究に没頭した。途方もない時間が流れ、実験失敗の数は優に万を超えた。 そして、その日は訪れたのである。 ◇  くしくも、カズトが受け取ったあのメールに記されていた日時にシステムは完成した。惜しむらくは、そのシステムに受信機能を備えられなかったことで、過去と現在の双方向のやり取りは不可能であった。  だが、それでも十分だった。カズトは長年の寝食を犠牲にした研究のせいでやつれてしまった腕を震わせながらメールを打ちこんだ。  劇的な過去改変は、時空ごと空間を歪めてしまう恐れがある。そうなるとカズト自身の存在が現在の時間軸に定着しきれずに消滅するかもしれないのだ。それだけは避ける必要があった。  カズトはあの時のメールの文面を思い出し、慎重に言葉を選びながら少しだけ改良を加え、そうして文面は完成した。
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