幸ある未来の入手法

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 タカベカズトの前途は揚々の筈だった。  学部生時代の熱心な研究姿勢が認められ、教授に勧められるがまま研究者の道を志した。多少の紆余曲折はあったものの無事、博士課程を修了し、ある大手メーカーの技術開発部門にヘッドハンティングされ、配属したのが二十八のとき。  竹を割ったような実直な性格は周囲に敵を作らず、そのくせ研究熱心な勤務態度から不安視されていた将来の伴侶についても、学部生時代からの恋人が既にいるということが後に分かったのだった。  こういう一徹な人間というのは、恋人を作るまでが大変なのであって、一度、運命的な出会いがあれば話はとんとんと進んでいくものだ。真面目が白衣を着ているような男なので、彼に限って恋人への決定的な裏切りというものはあり得ないからである。となると、変な女に引っかかったのではと同僚はまたも気を揉んだが、それも杞憂に終わった。  恋人の名はサチといった。深窓の令嬢を彷彿とさせる楚々とした美人である。文学部出身の彼女は、カズトの研究について全くの門外漢であったが、仕事のことに無理に干渉できないというのが却って奏功し、大した仲たがいもなく婚約は秒読みと思われた。
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