幸ある未来の入手法

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 カズトの将来に陰りはなく、それは周囲の人間は言わずもがな、当人らも大いに認めうることであった。  彼の視界に、おおよそ人生で初めての暗雲が立ち込めたのは、三十歳の誕生日を迎えて後のことである。それは微かな変化から始まった。胸の辺りに鈍痛があり治まらないのである。  それが全快には臓器移植が必要な難病であり、また、たとえ運よく移植手術に着手できたとしても成功率は極めて低いものであるということが分かるのに時間は掛からなかった。無情な診断をした医者は、診察室にて既に生気を失くし土色の表情を浮かべるカズトに苦渋の面持ちで追い打ちをかけた。 「延命治療にも限界はあります。もって半年でしょう」  選択の余地はなく、カズトは病室での闘病を余儀なくされた。よく転落人生などという言葉を耳にするが、坂を転がり落ちるのでもなく、まるで崖から谷底へ垂直落下するかのような自らの人生を省みて出てくるのは乾いた笑いだけであった。
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