幸ある未来の入手法

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 メールの送信者欄にはカズトの名があり、そして送信日は十三年後の今日を指し示していた。そんな、まさか。カズトは我が目を疑った。指が震え、じわりと汗が噴き出てくる。  あり得ない。カズトは気が違ったのかと思ったが、ただ、もしも明日になってメールの文面通り本当に臓器提供者が現れたらどうすると考えた。もし、そうなれば偶然にしては出来過ぎである。 「まさか、本当に……」  もっとも、これまでの闘病生活の中で何度も助かるやもしれないという希望の芽がぽっと出てきて、そしてすぐさま摘み取られるというようなことはあった。 そういった経験を短期間に繰り返してきたために自然に育まれた精神衛生における処世術であろうか、カズトは半信半疑のまま結局、そのメールのことは忘れようとしていた。  いずれにせよ明日になれば答えは出る。慌てるのはそれからでも遅くはないだろう。病室の小さな窓からは、黄色く色づいたイチョウの木が見えた。 「綺麗ね」  いつのまにか病室へやって来ていたサチが声をかけた。カズトは努めて平静を装った。 「外出許可が出たら直に見たいものだね」 「止めた方がいいわよ。銀杏って臭いんだから。遠くから見てるくらいがちょうどいいの」  サチが苦笑した。 「それもそうだな」  カズトも苦笑した。胸に響いたが、その痛みにももう慣れつつあった。
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