1人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
初めての彼氏が出来た!
しかも彼から告白されて付き合う事になるなんて♪
でも、嬉しい気分を打ち砕くメールが、真夜中に送られてきた。
『その男は、将来暴力をふるう。すぐに別れなさい。
~十年後のあなたより~』
送り人のアドレスは自分と同じ。
ものすごく不気味だけど…。
出来たばかりの恋人と、別れるなんて出来ない。
あんなに優しい彼が、暴力をふるうなんて信じられないし。
きっと、誰かのイタズラなんだ!
そう思い、私はメールを無視する事にした。
†
あっと言う間に十年がたってしまった。
「ホコリで喘息がぶり返す!!」
「こんなに味を濃くして、高血圧にするつもり!?」
毎日、皿が飛んだりテーブルがひっくり返されたりする。
その度に、片付ける背中が哀し気にゆれている。
「私に暴力をふるったんだから…。約束だもの、言う通りになさい!」
十年前。
一晩眠っても、結局メールの事が忘れられず、私は彼と約束をした。
―私に手をあげたら、ずっと私の言いなりになる―
それから約一年後のケンカで、彼は私にビンタをしたのだった。
「何一つ満足に出来ないんだから…」
私のつぶやきが聞こえたのか、彼がこちらを見る。
口をへの字し、コブシが震えている。
「なぁに?また、暴力をふるうの?」
右手で軽く自分のほおを叩いて見せる。
すると彼はまた、哀し気な背中をゆらしながら片付けを続けた。
彼の背中に見飽きてカレンダーに目を移すと、今日が告白された日だと気が付く。
そうだ!
過去の私に教えなくちゃ。
彼に暴力をふるわれるんだって。
過去の自分にメールを送る術は判らないけれど、とりあえず自分のアドレスにメールを送ってみる。
エラーにならなかったし、自分の携帯にメールは来なかった。
きっと過去の自分に無事メールが届き、次の日には『約束』を交わすだろう。
―私に手をあげたら、ずっと私の言いなりになる―
この『約束』を…。
‡
俺は…なぜあの時、あのメールを信じなかったのだろう…。
ただのイタズラだと思い、無視したのだろう…。
今日はあの女に告白をしてしまった日。
どうすれば過去の自分を止められるのか判らない。
でも、試しに送ってみよう。
あの日の真夜中に届いたメールと同じ、あの文章を…。
『その女は、将来暴力をふるう。すぐに別れなさい。
~十年後のあなたより~』
最初のコメントを投稿しよう!