第1章

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初めての彼氏が出来た! しかも彼から告白されて付き合う事になるなんて♪ でも、嬉しい気分を打ち砕くメールが、真夜中に送られてきた。 『その男は、将来暴力をふるう。すぐに別れなさい。 ~十年後のあなたより~』 送り人のアドレスは自分と同じ。 ものすごく不気味だけど…。 出来たばかりの恋人と、別れるなんて出来ない。 あんなに優しい彼が、暴力をふるうなんて信じられないし。 きっと、誰かのイタズラなんだ! そう思い、私はメールを無視する事にした。 † あっと言う間に十年がたってしまった。 「ホコリで喘息がぶり返す!!」 「こんなに味を濃くして、高血圧にするつもり!?」 毎日、皿が飛んだりテーブルがひっくり返されたりする。 その度に、片付ける背中が哀し気にゆれている。 「私に暴力をふるったんだから…。約束だもの、言う通りになさい!」 十年前。 一晩眠っても、結局メールの事が忘れられず、私は彼と約束をした。 ―私に手をあげたら、ずっと私の言いなりになる― それから約一年後のケンカで、彼は私にビンタをしたのだった。 「何一つ満足に出来ないんだから…」 私のつぶやきが聞こえたのか、彼がこちらを見る。 口をへの字し、コブシが震えている。 「なぁに?また、暴力をふるうの?」 右手で軽く自分のほおを叩いて見せる。 すると彼はまた、哀し気な背中をゆらしながら片付けを続けた。 彼の背中に見飽きてカレンダーに目を移すと、今日が告白された日だと気が付く。 そうだ! 過去の私に教えなくちゃ。 彼に暴力をふるわれるんだって。 過去の自分にメールを送る術は判らないけれど、とりあえず自分のアドレスにメールを送ってみる。 エラーにならなかったし、自分の携帯にメールは来なかった。 きっと過去の自分に無事メールが届き、次の日には『約束』を交わすだろう。 ―私に手をあげたら、ずっと私の言いなりになる― この『約束』を…。 ‡ 俺は…なぜあの時、あのメールを信じなかったのだろう…。 ただのイタズラだと思い、無視したのだろう…。 今日はあの女に告白をしてしまった日。 どうすれば過去の自分を止められるのか判らない。 でも、試しに送ってみよう。 あの日の真夜中に届いたメールと同じ、あの文章を…。 『その女は、将来暴力をふるう。すぐに別れなさい。 ~十年後のあなたより~』
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