雪の事実

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手術中のランプがついたのはついさっきのようにも、何年も前のようにも思える。 その間、俺はただ祈ることしかできなかった。 手術が成功してくれ。 その言葉をつぶやいた数はすでに数え切れない。 ドラマなどて見る手術待ちのシーンは退屈だとばかり思っていたが、いざ自分がそうなると時間など気にしてられない。 運ばれる前と同じように、体の一部を動かさなければ落ち着かない。だから、普段は絶対にしない貧乏ゆすりが足に張り付いた。 それのおかげで血の巡りが良くなったのか、ふと携帯の時間を確認してみる。 すると、もう手術を始めて五時間も経過していた。 もうすぐ終わるのか。はたまたもっとかかるのか。 偏った知識で作られた俺の判断では白黒つけることができなかった。 すると、静寂を打ち破る鋭い音が木霊する。 一瞬、手術が終わったのかと勢い良く顔を上げたが、まだランプは付いたままだった。 上がった顔をそのまま右に反らすと、激しく肩を上下させた二人の男女が。 俺はそれを見た瞬間、とっさに目をそらしたくなった。だが、俺が犯した罪の重さがそれを許さない。 「……雪乃は、雪乃はどうなった……」 途切れ途切れの息から、垣間見えるのは溢れ出す不安と抑えきれない怒りだ。 俺にはそれに臆することすら許されていない。 「…………危険な」 ーそれを言葉にする刹那、胸ぐらをつかまれたのがわかった。 彼、雪乃の父親ははち切れんばかりの怒りを俺の目一点に集中させた。それに対し、俺は雪乃の一件からの負い目もあり、直視できない。 「お前が……お前が幸せにすると誓ったから俺は雪乃を預けたんだ!……俺の判断は間違っていたのか!?」 返す言葉もなく、ただうなだれた。 雪乃の母親は、父親をなだめようと必死になっているが、 それすらも申し訳なくなってくる。 父親も脱力したようで、俺の体は音もなく崩れ落ちた。 その後、暗い空気が一転したのを肌で感じた。 だが、決して明るい空気ではない。緊張したような、息苦しい空気だ。 見るとー手術中のランプが消えていた。 俺はすぐに立ち上がり、数刻後開くであろう扉を 穴が空くほど見つめた。 それは、雪乃の両親とて一緒だった。 さらに緊迫する中、重々しくその扉は開かれた。
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