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「あ、起きた?おはよう」
最後の文字を書き終わったころに、ちょうど声をかけられた。
俺の妻、雪乃である。
「……おはよ」
すると雪乃は、俺の背中の文字に気付いたらしく、顔をほころばせた。
だが次の瞬間にはキリッとした顔に戻り、「はいはい。さ、準備するよー」と言った。
気持ちは嬉しいけど、それを表したいなら誕生日会の準備もね。
意味はそういうことだろう。
俺も苦笑いすると、雪乃の後に続きキッチンへ行く。
雪乃は棚をごそごそと漁ると、大量の二等辺三角形の紙を俺に渡した。
「この紐全体に行き届くように通して。終わったら私が飾り付けるから」
初め何をするか全く分からなかったが、合点が行く。
よく小学校のころは紙を切って作ったのを覚えてる。もともと両端に穴が開いており、通すだけで完成する優れものだ。
言われた通りに作業すること十分。
気付けば俺と雪乃合わせて六つの紐が完成していた。
「よし、こんなもんかな。待ってて、つけてくる」
「手伝おうか?」
男である俺が黙って見ているのはなんだかむずがゆくなる。
だが雪乃は、ひらひらと手を振ると休んでて。と言った。
そう言われては動きようもないので、これ以上は手を出さなかった。
それでも、何かしていたいので、食器棚からティーカップを二つ取り出す。
雪乃は食器の音がすると、俺が何をするのかわかったようでニッと歯を見せて笑った。
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