0人が本棚に入れています
本棚に追加
キスをしたあと、何事もなく二人は別れた。
雪乃はある程度服を着込み、屋根へと向かう。
俺はというと、別に外に行くわけでもないので、言われた通りに掃除のための道具を用意したくらいだ。
だが、普段から掃除をしないため、掃除道具がどこにあるかさっぱりわからなかった。
大きな掃除機や立てかけてあるモップなどはすぐに目についたが、この床を見る限り既に使う必要はないだろう。
俺が必要としているのは、もっと細かなゴミをとるための道具だ。
窓のさんなどを見ると、まだホコリがたまっている。ウェットティッシュを使うが妥当な方法だと思うが、あいにくとウェットティッシュの場所すら知らない。
こうなったら、ティッシュを濡らして拭くか。
そう思った刹那、本棚の一番下の本が目についた。
なんだが懐かしいような、そんな感じが頭を突き抜け手を伸ばさせた。
手に取ると、なぜ懐かしいのかがすぐにわかった。
それは……アルバム。
二人の思い出を貼り付けた、世界でただ一つの二人だけのものである。
これが生まれてくる我が子との思い出にもなると思うと口角が上るのを止められない。
開くと、二人の出会った合コンの時の写真に始まり、結婚式からその後の写真までびっしりと埋まっていた。
もちろん、俺がこのアルバムを作ったわけではない。一から十まで雪乃が作ったものだ。
俺との日々に、幸せを感じている雪乃をこうして振り返ることなんてなかったかもしれない。
よく見ると、大小様々だが雪乃は笑っている。そして、いつもその隣にいる俺もまた、笑っている。
このアルバムは、喜怒哀楽の喜だけを詰め込んだようなものだ。
これだけあると、価値を見失ってしまいそうだが、これを作るのに一体どれほどのお互いの愛情が必要だったのだろうか。
互いが互いを思い、二人でいれば『楽しい』。これを共通の気持ちにするのに踏んだ道は決して無駄ではないと真摯に訴えるものがあった。
すると、周りと少し違う一枚の写真が目につく。
それは、唯一俺と雪乃が笑っていない、緊張した顔の写真。初デートの写真だ。
二人ともデートに力を入れすぎてなんだがおかしな服装になっている。
俺は一張羅として高めの服を選んだつもりがそのせいでバランスが悪くなっていた。
雪乃は下手に化粧なんかするもんだから別人にも見えないこともない。
ー笑い声が、喉まで出かかったその刹那、大きな謎の音がした。
最初のコメントを投稿しよう!