雪の後悔

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一瞬どこかで雪が落ちる音か、雪乃が落とした雪かと思ったが、脳がそれを否定した。 あの音は、雪なんかじゃないっ! そう思うや否や、俺は駆け出す。 服や靴なんて言ってる場合じゃなかった。裸足のままで飛び出し、音がしたと思う場所へ。 冷たい感覚は脳へ伝わる前にさらに大きな感情にカットされた。 そして、無我夢中で駆け抜けた先にはー ー雪の中倒れる雪乃の姿が。 「雪乃ぉっ!」 うまく声にできたかなんてわからない。獣の如きそれが空を穿つ。 だが、それに応えるものはなかった。 急いで駆け寄るが、こういった場合の応急処置など微塵も心得てない。 ポケットから携帯を抜き取り、即座に緊急通報用電話番号へ。 時は一刻を争う。それがわかっているからこそ、俺は電話の相手に怒鳴り散らす。 何度も『落ち着いてください』との声がした。 大切な人が事切れそうな時に落ち着けるわけねぇだろっ! 気付けばそんなことを叫んでいた。 脳の冷静な部分では、叫んだところで意味はないとわかっている。 だが、今は冷静な部分があることすら腹立たしい。 絶えず瞬きを繰り返し、手は忙しなく動き、留まることを知らないようだ。 動かねばならない。 だが、動き方がわからない。 だからこうして、手は虚空を掴むことしかできなかった。 もどかしさに頭が狂ってしまいそうだ。 そして何もできないとわかった以上、自分を責めることしかできなくなる。 なぜ、俺はあの時雪かきを任せたのだろうか。 なぜ、もっとたくさん喋らなかったのだろうか。 なぜ、キスを短く済ましてしまったのか。 なぜ、俺は…… なぜ…… 「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」 俺は首をかきむしる。 ここを切れば死ねると直感的にわかっていたからだろうか。 だが、所詮死ぬことなんかできなかった。 そうしていると、救急車の音が近付くのがわかった。 もう近いとわかっていても、落ち着くことなんてさらさらできやしない。 そして、雪乃が運び込まれるまで俺は荒い息を続けるのだった。
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