第二章

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―――――――――――――ガチャン 一枚扉を隔てた玄関から、鍵の開く音がして私は目を覚ました。 暗かった部屋に明かりが灯り、 「……寝ていたのか?」 一呼吸置いてから聞こえる、優しい声色。 ホッと安心するような、耳心地が良い……とでもいうのだろうか。 「うん、ごめん……ご飯作ってなかった。直ぐにっ……!」 「いや、いいよ。腹は空いていないから」 ソファから体を起こし、急いでキッチンの方へ移動した私を彼の声がひき止める。 「えっ……でも……」 「大丈夫。それより、仕事疲れたろう?」 キッチンのカウンター越し、カウチソファにドっと座り、ネクタイを緩めながらフワリと細い目を私に向けたのは矢野 宗次郎(やの そうじろう)。 彼との関係は信頼こそあれど、恋人でも友人でも無い いわばグレーゾーン。
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