声がきこえる

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不覚だった。敵に見つかった。 しかし、気づいた時は既に手遅れ。突如として身体に降りかかる霧があっという間に周囲に充満し、同時に異臭が鼻につく。 視界は白く霞み、それが霧の色彩によるものなのか、毒気によるものなのかは分からない。 間もなく、頭は石のように重くなり、鋭い痛みが脳天を突き抜けた。卒倒しそうになる中、一刻も早くここから抜け出そうと足を動かす。しかし、嫌な空気に当てられたせいか、身体はいつものように簡単には動いてくれない。自慢の鎧が重く感じる。 おそらく敵は私のすぐ近くで、とどめを刺そうと待ち構えているに違いない。いや、それともこうして苦しみ悶える姿を、嗤って眺めているだろうか。焦燥と不安と恐怖で心臓が早鐘を打つ。一体どうしたらこの苦しみから抜け出せるだろうか。おぼつかない足取りで、なんとかして前に進もうとするが、今まで逃げてきた疲労と、全身を蝕む痛みに負け、すぐさまそこから一歩も動けなくなってしまった。 一瞬、意識が遠のいた。 だが、まだ諦めてたまるものか。動け、動け!痛みで悲鳴を上げる身体を叱咤して、一歩踏み出す。しかし、身体は上手くいうことをきいてくれなかった。まるで頭と身体が別物になったようだ。 ゆっくりと崩れ落ちていく自分を、どこか遠くから見下ろしているようだった。麻痺した身体は、もう自分の意思ではどうにもならなかった。微かに痙攣し始めた手足からは、徐々に感覚が奪われていく。こんなところで朽ち果てるとは、なんとも情けない。 頭は働かなくとも、死期がすぐそこまで迫ってきているのは理解できた。
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