声がきこえる

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「気持ち悪いなもう!」 姉は殺虫剤を振り回しながら叫んだ。 「冷たいなあ、ゴキブリが可哀想だと思わないのか」 俺はため息混じりにふざけた調子で言った。必要以上に噴射されただろう、つんとした薬品の臭いが、姉の部屋の入口前で漂っていた。 そこには一匹のゴキブリが転がっている。 「だったらあんたは自分の部屋にゴキブリがいても放っておくわけ?」 姉は振り返って俺を睨んだ。 「上手く追い出して部屋の外へ逃がすよ」 用意していた、ゴキブリを包んで捨てるための新聞紙をさりげなく手渡す。 「そんなことするから、私の部屋にゴキブリが入ってくるんじゃない!」 姉は新聞紙をひったくり、代わりに殺虫剤を手渡してきた。 もちろん俺はそれを受け取る。 「姉ちゃんに退治してもらおうと思って」 俺は殺虫剤を床に置いた。 「あんた、それゴキブリを可哀想だとか言う資格ないよ」 「自らの手は汚さず仕事を遂行するのが俺のセオリーだからね」 「うっさいよ」 文句を言いながらも、新聞紙で慎重にゴキブリを掴む姉。さすが、ゴキブリ多発のボロ家に住んでいることだけあって慣れている。 ま、俺は頼まれてもお断りだけど。
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