二者択一

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ーー某年11月26日(木) 「ん…なんだこりゃ」 出社前、スマートフォンのメールボックスを開くと、奇妙なメールが1通届いていた。 『午前7時37分、桜町信号前、必ず右折すること』 文書はそれだけだった。件名もなければ、アドレスも覚えのないものだ。 間違いメールだろうか。俺はさして気にすることもなく、早々に家を出た。 車に乗り、エンジンをかけたとき、ふと先ほどの文面を思い起こす。 「桜町といえば…いつも左折するところじゃないか」 会社に行くには、その信号を右折した方が近道だ。しかしなにしろ道が混むので、距離的には遠回りだが、左折した方が時間に余裕を持って行くことができる。 あのメールのことが妙に気になり始めたのは、それからだった。まるで何かのダイイングメッセージのような、理由も記載されていない不思議な文面のことが、頭から離れなくなっていた。 …もしあれが自分宛のメールだとしたら? まさか。それならば知らない相手から届くはずがない。第一、なんの意図を持ってあのメールが送られてきたのか分からない。 ついに桜町信号前で俺の車は止まった。道路状況はいつもと変わらず。これといって気になる様子もない。 なんだ。何もないんじゃないか。 しかし俺は、言い知れぬ不安感を拭い去ることができずにいた。 「…くそ」 俺は車のウインカーを左から右に替えた。 あのメールの言いなりになるのは納得がいかなかったが、その通りにしたからといって困ることもない。多少ギリギリになっても出社時間を過ぎることはないだろうし、それよりもこのモヤモヤとした気持ちを解消するにはこうするしかないと思ったのだ。 信号が青に変わるのと同時に、ハンドルを右手に切った。 そのとき時計が、午前7時37分を指そうとしていることに、俺はまったく気づいていなかった。
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