モーリス・グリーン

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 画面には、青空の下、白い線を描くトラックの上を疾走する1人の陸上選手が映し出されていた。  走る。  まるで弾丸のように一直線にトラックの端を目指す。  それは、人の走りというものが2本の足を交互に前に出しての移動であるということを忘れさせてしまうほど滑らかで、豪快で、鮮烈な物だった。  回りの選手との差をぐんぐんと開き、その選手は圧倒的な大差をつけ1着でゴールした。  1泊の前を置き、電光掲示板に『9.79』という文字が表示され、歓声が爆発した。 「…………はぁ」  そして、僕はテレビ画面から視線を外した。  いつもの日課を済ませ、一息をつく。  何度見ても、彼――モーリス=グリーンの走りは凄かった。  先行逃げ切り型。……といっても、スタートで抜け出し、後半で他の選手に迫られながらフィニッシュするという従来のタイプとは違い、スタート後中盤まででリードを作り、それを維持する形でフィニッシュするという、全局面でイーブンに力を発揮するという新しいスタイルの走り方。
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