第1章

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銀座通りに店を構えて何年になるだろう。 かつてはマスコミにも取り上げられ、銀座マダムと呼ばれたことも懐かしい。 「他に占って欲しいことは?」 人は悩み多き生き物だと京香は思う。 だからこそ、休むことなくここで占いを続けて来た。 実業家の青年から熱烈なラブコールを受けたのは二昔前の事だ。 六本木に建てる高層ビルで京香を迎えたいと言った。 そこにいて、気が向いた時にでも店に顔を出してくれれば良いと言うのだ。 月に幾ら払うと言っただろうか。 お金には興味がなかった。 ただ実業家ゆえに浮き沈みがある。青年が人を信用出来なくなった時は、京香が親身になって占ってあげたことも昔話しだ。 「彼と本当に結婚出来ますか?」 「ウソはついたことないの。出来るから安心していきわ。ただね…」 相手の男性には浮気グセが結婚後に芽生える。残念ながら客の女には男をそうさせてしまう星の巡り合わせを生まれながらに持っていた。 「ただ、何ですか?」 「…貴女の望みは叶うから安心しなさい」 京香はどんな客にも微笑を浮かべて話をする。 そんな風になったのは、きっと子供の頃からだろう。 「マダム、ありがとうございます」 一応、料金表が片隅に置いてある。今となってはそこを食い入る様に眺めている様な客は修学旅行生くらいな者だった。 現金を封筒に入れて渡すのは、いつからか出来上がったここのキマリ事になった。 「心から愛すること。忘れちゃダメよ」 占い師の京香には、客の持つ星の巡り合わせをどうする事も出来ない。ただ覗き見して、全てを理解するとあとは言葉を慎重に選ぶだけだ。
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