第1章

3/3
前へ
/3ページ
次へ
どんな人だろうと京香にはその人の行く末も見えてしまう。 大抵の客は、目先の事を心配してここに来る。 気になるあの人の事。これからの恋。そして結婚、子供。 ただ星の巡り合わせは誰にも変えることが出来ない。 全ての望みを叶えたとしても、行く末で人がまるで別人になってしまっても不思議はなかった。 恋が実り、結婚して子供を授かる。 老いたその先までずっと幸せである人など京香は見たことも聞いた事もなかった。 「そろそろ今日も店じまいだね」 京香は晴れていてもほとんど瞬くことのない銀座の星空を見上げてため息をつくと手元のカードを見つめた。 占い師が禁断とされている事。つまり自らの未来を占う事。 京香はある事をきっかけにそのタブーを破った。 「…。やっぱり同じ結果だわ!」 そんなはずは無いと言う想いとそれしか出ない現実。 流石の京香でさえ、気掛かりにならない方が不思議だった。 「もう一回だけ!」 珍しく占う手が震えていた。自分が人の子なんだと実感する。 京香には物心ついた時から身寄りがいない。初めての結婚は十六歳の時。初産は死産で、それからも二人の娘を産み落としたが、長くは生きてはくれなかった。 言い寄る男も今となっては一人も思い出せない。 ある時から気にはなっていた。 それで交際には慎重だったから、疎遠になる為に食事くらいは付き合った。 「やっぱり同じだわ」 寒くもないのに身震いが止まらなかった。 胸に手を当て、内ポケットに忍ばせたスマホの角ばりを確かめる。 「だけどそんな事が本当にあるの?」 京香は占い師の自分を疑わずにはいられなかった。 「ある訳ないじゃない。百年先の私が書い寄越したメールだなんて。私、何歳になっているの?」 不吉な予感は子供の頃からある。 誰かが死ぬ度に京香の肉体は生き生きとして活力がみなぎる。 何度占っても答えが出ない京香の寿命。 もしかすると…。京香が恋に臆病なのはまた誰かの寿命を奪い取る星の巡り合わせに気付いたからかも知れない。
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加