第1章

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◇ ◇ ◇ しくしくと泣く女がいる。 何度も夢に現れ、彼を詰った悪夢のセイレーンが泣いている。 今は見る影もなく萎れて。 どうしたんだ、君。 いや、茉莉花? 彼女は言う。 私は悪い子だから、罰を受けるわ。 きっと地獄に堕ちる。 だって、人の道にもとることをしてしまった。罪深い女なのだから。 君が悪いわけじゃない。 慎は声をかけようとして、目覚めた。 ――夢? いいや、夢ではない。 その証拠に、彼は自宅ではなく、学校の一室にいたのだから。あり合わせのもので身を包み、狭いソファーに寝転がっていた。 泣いていたのは茉莉花だ。 生身の身体を持つ彼女が、身の置き所をなくして泣いている。 何てことをしてしまったの、と。 昨晩、慎と彼女は、この一室で一夜を明かし、ふたりは結ばれた。
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