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すっかり冷えた身体は、随分と長く彼から身を離していたことを伝える。
かわいそうに。温めたくて身体をさすった。触れるとどうしても求めてしまう、一旦知ってしまった禁断の果実の味をもう一度と。
まるでお互いが誂えた存在のようで、ぴたりと合って溺れた。
大きく仰け反り、両の胸も露わに喘ぐ彼女の身体に朝日がかかり、汗をまぶした肌は産毛一本も漏らさず光り輝く。
恋人同士の時間は終わりだ。
ふたりはそれぞれの時に戻らなければならない。
わかっているから尚のこと、ふたりは名残惜しく逢瀬の時に身を委ねた。
早朝、まだ誰も登校してこないのを確かめて、ふたりは並んで扶桑館を後にした。
思い詰めた彼女の口が開かれ、言葉――おそらく別れの――が出てくるのを止めて、慎は言う。
「何も言わなくていい。君が心配することは何もない」
「でも」と言い募ろうとする彼女を抱き寄せ、耳元で囁いた。
「もう離さない」
恐怖の色に彼女の瞳が見開かれる。
だめ、と全身で拒否する彼女に、慎は宣言した。
「やっと君に辿り着けた。もうどこにもやらない、誰にも口出しさせない」
そうだ、もう彼女なしの人生などあり得ない。
誰の手にも渡さない、茉莉花は私のものだ。
守る、何があっても。
息子も――妻も。
愛する者をこの手で守り抜くのだ、それのどこが悪いというのか?
強くあれ、自分。
他人にとやかく言われないだけの力と甲斐性を持て。
心を強く持てば、どんな困難も乗り越えられる。
慎は自分に言い聞かせた。
私ならできる、と。
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