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◇ ◇ ◇
背の高い男ふたりは、ざくざくと砂を噛みしめるように歩く。
ここに至る経緯はどちらも口にしなかった。東京ではなく遠く離れた土地にいるふたりが、物見遊山で九州に逗留しているのではないことぐらいわかっている。
「今、何をなさっておいでで」
木幡は、持って回った節にならない、へりくだりすぎないが距離を置いた丁寧な口調で問う。武が木幡に一目を置く所以だ。木幡は語るもの全てから、生まれの良さが出ていると言った。人の出自は語る言葉の端々に宿る。本人がどんなに繕っても、それなりの出の者から醸し出される雰囲気は消せない。
「大学で教えている」
「ああ、近くにありましたね。臨時でですか」
「初めのうちはそのつもりだったが……実際の所わからない。東京へは戻れないかもしれない。ここに骨を埋めることになるかもな」
「まさか、そんなことは」軽く木幡は驚いたようだった。
「あるのだよ」慎は即答する。
「成る程、宮仕えの辛さというやつですか」
「そういうことだ」
さくり、柔らかい砂に足を取られた。めり込んだ靴を脱ぎ、砂をはたきながら問う。
「君は今、何をしている」
「まあ、腹が減らない程度に生きております」
うそだ。慎は見破る。
木幡はうらぶれた風を装っているが、着ているものからはその感じを全く受けない。上質な服地をふんだんに使った仕立てのスーツで全身を覆い、顔には無精髭の一本ない。
おそらく、東京で闇市を率いていたように表には出られない稼業で生計を立てている。
慎と木幡は正反対の存在だ。水が違えば見える世界も違う。立てる筋道も変わってくる。
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