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開口一番、木幡は言った。
「残念ですが」
無駄口は叩かない。
あなたの捜し人は見つかりませんでした、ということか。
木幡でさえ茉莉花には届かなかった。
足元の砂が海から打ち寄せる波に掠われ、ずぶずぶと堕ちていく錯覚に囚われる。
「お力になれず」
ぺこりと木幡は頭を下げ、「では」と踵を返した。
砂を踏む音が続く。慎の脇を抜け、四,五歩いった所で木幡は立ち止まった。
二人の男はお互いに背を向けている。
木幡は言った。
「自分には仰いませんでしたが、尾上様は結婚されているそうですね。東京に奥様とお子さんもいらっしゃると。なのに女を捜せと頼まれた。探し人はあなたの何なのです」
「彼女は……」
様々な思いが慎の内を巡り、言葉となり、ぐるぐる回る。単語が細切れになって、意味を成さない文字にまで解体される。
人の道にもとる行いをした。
愛しているから。
そして他にも愛する者がいる。周りに祝福されて持った家庭、慎が責任を担わなければならない家族が。
「まあ、いいでしょう」木幡は斜め上に視線を向ける。
「尾上様が試した者たちが成果を上げられないのも道理です。自分も同じ目にあいました。彼らではどうすることもできなかったでしょう。無理を通そうとすると我らの世界では生き残れない――この意味、わかりますか」
わかるともわからないとも言えない。続きを待つ。
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