第1章

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「探し人は何者ですか」咳払いをして木幡は繰り返す。 「大切な人だ」 「女がですか」 「そうだ」 「妻子がいても?」 「……そうだ」 「ご依頼には応えられませんでしたが、あなたにお伝えできることはある。お待ちなさい」 「待つ?」 「自分があなたに言えるのはここまでです」 では、と軽く帽子をあげて、木幡は今度こそ去って行った。 待てば彼女の消息に繋がるのか。それはいつまで続くのか。 木幡を追いかけ、首根っこをつかまえて問いただしたい衝動に駆られる。 が、彼は慎に待てと言った。いくら問い詰めても彼は望む答えは口にすまい。 そして、今度のことが終わったらお互いに干渉しない約束だった。 先が見えない。 遠くだった波音が、今は大きくうねって響く。 潮が満ちる。 茉莉花と最後に別れてから、季節は3つを数えていた。
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