第1章

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周りにたきつけられたからではないが、帰省している間は妻を毎夜のように抱いた。夫からの求めには数回に一度応じればいい方で、政が産まれてからは寝室も別にしていた妻も、夫が帰省している間は隣で眠り、抱かれた。 結婚して以来、妻と長く離れて暮らしたことはない。慎は彼なりに房江を愛していた、夫婦なのだから感情も身体もお互いを求めるのは自然なことだ。房江は慎以外の男を知らず、夫には全てに受け身だ。そこがもどかしくてそそられたが、時には物足りなくもあった。 しかし、いつもと違って快感を表に出して隠さない妻の反応には、煽られる自分を抑えられなかった。彼女を今まで側に置かずに過ごせたのが不思議なくらいに。 しかし、男は事が終わると萎えるように素面になる。彼の隣で余韻に浸る妻が羨ましかった。 三が日の最終日には九州へ出立した。この時も息子は俯いて、目頭に涙をいっぱい浮かべていた。妻も同様だった。 愛しい者たち。 彼らの不在がこれ以上続くのは耐えがたい。春になったら、政が三学期を終えたら、今度は有無を言わさずふたりを呼び寄せよう、親子三人の生活を取り戻そう。 鬱々として旅路につき、戻った宿舎で荷ほどきをした。房江が持たせたおせちの残りや総菜を口にした時に思った。自宅にいる間は一度も茉莉花のことを考えもしなかったと。 このまま何事もなく日が過ぎていくだろう。もう茉莉花と会うことはあるまい。 そうなったらなったでいいではないか?  私には妻と子供がいる。
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