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妻の食事を次に食えるのはいつだろう。持って帰った総菜は食えば減っていく。当たり前のことだが、それが惜しくて、食べきるのにわざと日数をかけた。
屠蘇気分が抜け、七草、鏡開きと続く頃には世間は年始の浮かれ気分を遠く追いやり、日常に戻っていくものだ。
すると、慎の心の内で存在感を増してくるのは、置いてきた家族ではなく茉莉花だった。
つい一・二週間前まで妻子と過ごし、別れを惜しんだところだというのに、そのことを忘れて恋人の不在が堪えた。
何をしているのだ、私は。
女に振り回されて、焦燥感に苛まれる。これが恋というものならしたくない。
そしてすぐにその思いを打ち消す。
振り回されてもいいから、茉莉花が欲しい。
会いたい。
空に浮かぶ月を欲しがる子供と何ら変わりのない自分が情けなくも愛しかった。
木幡に「待て」と言われてからさらに季節は移ろっていく。
このまま、もう何も変わらない、そう思い始めた頃だった。ある男が慎を訪ねてきた。
これが「待つ」ということか。
訪問者と対峙して、慎は手にしていたものをばたばたと床上に落としていた。
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