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「人に探させても足跡すらたどれない」
ふっ、と、今度は慎にもわかるように次郎は微笑した。
「妹たっての望みだったからね。手を回して探偵にお帰り頂くくらい訳はない」
「成る程、特高へ行ったという話はまぐれではなかったようだな」
慎は不快を露わにする。
次郎は押し黙る。
慎はすぐに「すまない」と付け足すように言ったが、次の言葉が出てこない。
しばしの沈黙の後、次郎は言った。
全ての発端は、慎が出した手紙が茉莉花に届かなかったところから始まる。
次郎を信じて手紙を託した過去を悔やんでも仕方がないし、済んだことにもできない。わかっているが、もし、あの時手紙が届いていれば、今は確実に変わっていた。
……多分。
「お前に恨まれても仕方ないと、僕も自覚している」
「元気……なんだな」
ぽつりと慎はつぶやく。目の前にいる次郎のことではない。
「ああ、元気だ。茉莉花も」
含みのある言い方に、慎は訝しげな視線を投げた。
次郎はレトリックを駆使し、回りくどい言い方をして人を翻弄するのが得意だった。
続きを無言で促す。
「子供もね」
「子供!!」慎は飛び上がらんばかりの勢いで席を立った。
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