第1章

7/33
前へ
/33ページ
次へ
「まだ話は終わっていない」 自分の口から出たとは思えないほどの暗い声で慎はつぶやき、彼女の前へ出て扉を閉めた。 後ろ手で、まちがいなく鍵をかける。 やけに高く音が響いた。 かつて複数の女を相手にしていた頃のように手慣れた動きだ。 男と女がふたりきりで部屋に籠もってすることと言ったら、古今東西、そう数多くはない。 期待を込めて腕に飛び込み、言葉と身体で嬲り者にされるのを喜ぶ彼女たちとお前。どこが違う? たかが女ではないか。 怯えた目を見せる茉莉花は、慎の嗜虐的な部分を刺激した。 「君は、結婚しているそうじゃないか」 大きく見開かれた瞳は、驚愕を現す。 何故それを? と訴える。 ――本当だったんだな。 聞かされ絶望した日の記憶が、三郎の哄笑と共に蘇る。 彼女の手首をひねり上げた。小さい悲鳴が聞こえる。 「君の兄上が教えて下さったよ」 「それは――」と言ったきり、茉莉花は絶句した。 違います、と打ち消して欲しかったのか、私は。 それとも肯定してほしかった? 私が欲しかったものは、君の真心だけだったのだ。 なのに! 「私を好きだと言ったその口で、他の男の妻になったのか」 「違います」 「違わないだろう」 「だって、私は――」 ぎり、と手首を掴む手に力が入る。茉莉花は身を捩って逃げようとした。 私から逃げるだと? 「許さない」
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

3人が本棚に入れています
本棚に追加