第1章

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 今現在の俺から見て一週間後の、有名人の死没を予告したメール。知ったからといってどうなるでもなし、当たるか当たらないかをチェックするのはそれなりに面白そうだった。メールに書かれた日、部屋のテレビの電源を入れてすぐ、俺は画面に釘付けとなる。  高速道路で玉突き事故、死傷者10名以上。タレントAとみられる人物が死亡した模様――  お昼のワイドショーだった。どこの局も有名タレントAの死亡をひっきりなしにまくしたてる。メールの内容は、事実とぴたり一致したのだ。  俺のもとにはそれからも数日おきに、著名な人物の死没を予告するメールが届くようになった。某月某日、海外アーティストが心不全で、某月某日、大企業の元社長が肝臓がんで、某月某日、オリンピックの金メダリストが大腸がんで、それぞれ死没。死因、日時とも、メールの記載と一致していた。  なぜ人の死を予告するメールが届くのか。それも、日常引き籠っているだけの俺に。理由はわからないままだ。初めは面白半分でチェックしていた俺も、送られてくるメールの全てが寸分の狂いもなく的中するとあっては、予告を信じないわけにもいかない。俺はだんだんと、メールの、そしてそのメールを送ってくる何者かの存在が、恐ろしくなりつつあった。  三行にも達しない簡潔なメール、その内容に微妙な変化が見られたのは、俺がかすかな恐怖を覚えたのと時を同じくしてのことだ。 「嘘だ――」  部屋の片隅で震えるスマホを手にして、俺は思わず呟いた。 『同級生 河内翔、バイク事故で死亡。2016年1月4日 没』  河内翔、小学から中学まで一緒だった同級生だ。とても仲が良かった、というものではないが、9年も同じ学校にいたおかげで顔も覚えているし、どんなやつかもだいたい分かる。同じ学年のやつがいきなり死ぬ、というのは単純に信じがたいことだった。ただ、それ以上に。 「何で急に、身近な人間の死没予告が来るんだ」  それまでは画面を隔てた世界の有名人、言ってしまえば縁もゆかりもない人物のことばかりだったものが、突然に『同級生』へと変化したのだ。確かに最近は顔を合わせていない人物、ではある。しかし、タレントだの何だのと比べれば、明らかに距離感が違う。
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