第1章

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 きたる2016年1月4日。三が日も過ぎた月曜とはいえ町はまだ新春特有の高揚感に包まれ、仕事が休みの人も多いようだった。どうも落ち着かずにカーテンの隙間から外を覗いた感じでは、喜び勇んで町に繰り出していた3年前と4年前とそう変わらなさそうに見えた。  午前中、それに昼のあいだも特に変わったことはなかった。このまま一日が過ぎればいいと強く願っていた。が、夜になって、俺の願いは届かなかったと知ったのだ。 「正輝、いる?」  コン、コン、コン、と、扉が3回ノックされ、後に母親の声が続いた。メシの時は2回、それ以外の用事なら3回、扉をノックしろと伝えてある。大抵の場合ノックは2回で終わり、久しく会話をすることもなかった。だが、今日は違った。冷たいものが、体を駆け上がっていった。 「あたりまえだろ。何か用かよ」  声が上ずりそうになるのを押し隠して、不機嫌な様子を装う。 「中学校で一緒だった河内君が、事故で亡くなったって」 「!!」  どこかで予想はしていたのだ。もしや、そうではないかと。それでも、体中の力が抜けていくのが分かった。 「仲が良かった子のお母さんから、さっき連絡があって。外出先から帰ってくる途中に――」 「バイクで事故ったのか」 「し、知ってたの?」  母親の言葉を待ちきれずに俺は聞いた。反応から察するに、やはり今回も死没予告のメールは的中したのだ。 「……電話があったんだ」  未来からメールがあって、などというわけにもいかない。俺はカラカラに乾いた口で咄嗟に嘘をついた。それきり会話は続かず母親も階下へ去っていったが、もしまだ声をかけられていたら恐怖を悟られまいとして怒鳴っていただろう。  そうだ。電源を切ってしまえば楽になれる。他にメールを見る手段はこの部屋にはない。俺は部屋に打ち捨ててあったスマホを拾い上げ、すぐさま電源を切ろうとした。切ろうとしたのに。  まさに見計らったかのようなタイミングだった。俺がスマホをてのひらに収めた瞬間、メールが届いたのだ。  見なければどうということはない。が、また身近な誰かが死ぬのかもしれない。せめて次に死ぬのが誰なのか分かれば。大して関係ない、あるいはどうやっても助けられない人間なら、無視するにもやりやすい――。
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