第1章

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「なんで? つき合えばいいじゃん」  開口一番に無責任に飛び出すのは、そんな無遠慮な一言だ。 「他人事だと思って」  ソファ代わりに深く腰をおろしたベッドの上で、抱え込んだクッションをぽすぽすと殴りながら僕は答える。丈が長めのパーカーに杢グレーのスエットパンツの部屋着に着替えた僕とは対照的に、制服のスラックスにぶかぶかの紺のカーディガンを羽織った春馬は不満たっぷりのそんな返答をものともしないまま、にやりと涼しげに笑う。 「おまえだっていつだったか断ったって言ってただろ、同じだよ」 「その話、今する?」 「今しないでいつするんだよ?」  気まずそうに目を反らすその姿を、僕は思いっきり横目にきつく睨んでやる。 あれは確か半年かそのくらい前、確かまだ夏服に袖を通していたそんな時期のことだ。バイト先でよく同じシフトになるという女の子が春馬に告白してきたというありふれた、それでも彼にとってはちょっとした一大事件を打ち明けられたその日の顛末を僕は今更のようにぼんやりと思い起こしてみたりなどする。 「だってさ、別にその子のこと嫌う要素は無いんだよ? 顔はぶっちゃけ好みとは違うけど結構かわいいし、見た目とかじゃなくて態度とか話し方とか仕草とか、そういうのもかわいいなーって思ったりはするし」  かわいく見られようとしてるんだよ、おまえの前で。顔も見たこともないその女の子に、なぜだか同情したいような気持ちになる。 「じゃあつき合えば?」 「だから無理なんだってば!! てかおまえも知ってるじゃん? だから断ったんだってば!?」  折角セットした髪をくしゃくしゃと乱しながら、心底困った顔をして親友は答える。  要領を得ないなぁと思う。良くも悪くも素直で、思ったことから話すからこうなるんだ。まぁこういう所が彼の長所でありつき合いやすさのような物で、だから自然と人も集まるのだろうけれど。やれやれと思いながら、それでも仏心にも似たそんな気持ちを胸に、さりげなく助け船でも出すかのように僕は答える。 「じゃあさ、何でそんな後悔してるみたいな言い方すんの」 「……それは、その」  懺悔でもしたいつもりなのか、息苦しそうに唇をゆがめたまま、春馬は答える。 「だってさぁ、俺のしてるのって結局責任逃れの言い訳じゃん。告白したわけでもないのに、『好きな子が居るから無理です。』って」 「だったらいい加減さっさと言えば?」
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