0人が本棚に入れています
本棚に追加
僕は男で、祈吏は女だ。これから骨格もどんどん成長して、体付きも変わって、背だってきっともっと伸びる。お互いにぐんぐん変わって、そうやって似ている所も薄れて、それぞれに全然違う大人の男と女になればいいと僕は思う。そうすれば、そっくり同じじゃなくてもどことなく僕と似ているその面影はもっと薄れていくはずだと、そう信じているからだ。
血が繋がっていて、生まれてからずっと一緒で(途中、中一から中三までの二年くらいの間に離れたこともあったけれど)
そうやって隣り合った道を歩んだ相手を好きになることはごく自然な、当たり前のことで―寧ろ無関心だったり、心の底から忌々しく思うよりはずっと良いことだと思うのだけれど。どうやら世間の評価はそうでは無いらしいということには、成長するに連れて薄々感づいていた。だからこの気持ちを打ち明けた相手はたったの二人しか居ない、春馬は栄えあるそのうちの一人だ。
「ずっと一緒に居る相手のことって、そんなに好きになれるもん?」
「一緒に居るから好きになるんだよ」
どこか遠慮がちに、それでも核心を突いてきたその台詞を前にきっぱりとそう答えたことは、記憶にまだ新しい。
自分なりに迷って悩んで、気の迷いだとやり過ごそうとしたことも一度や二度ではなくって。距離を置くきっかけになるかもしれないと物理的に離れることも選んだし、その間に他に好きな相手だって出来た。それでもやっぱり心の根っこにあるその感情は薄れることも消えることも無いままだったのだから、それならとことん向き合おうとそう決めてから、もう随分経つ。
「つき合えばいいって言ったのはさ、別に軽い気持ちってわけじゃないよ」
窮屈そうに折り曲げた膝の上をなぞりながら、春馬は言う。
「前に言ってなかったっけ。向こうにいた時その、つき合ってる子がいたって」
「……まぁ」
曖昧にそう答える僕を前に、春馬は続ける。
「その子とはつき合えたんでしょ? だったらって思わないの? その、祈吏ちゃんの代わりとかそういうのじゃなくて」
「そんなこと言われたって、あの時の下田さんの向こうには祈吏しか見えなかった」
「……重症だね、知ってるけど」
「春馬と一緒だ」
最初のコメントを投稿しよう!