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バタン、と大げさに音を立ててドアを閉めて、しまうのも面倒な洋服をひとまず布団の端においたまま、ベッドに倒れ込む。TVの音と家族の話し声が少し遠く聞こえるこの静寂が今は心地良い。
セクシャリティと、横文字でそう呼ばれるような何か。17にもなるのに、僕には正直言ってそれがよく分からない。その曖昧な感情は、時々僕の気持ちを濁らせたりもする。
たとえばさっきのCMに出ていた女の子―瑞々しい笑顔も、適度にやわらかそうな体つきも、魅力的でとても可愛いと思う。その一方で、ホスト役の男たちに囲まれて愛想笑いをする俳優の男の、しなやかな筋肉が息づくことを想像させる背中のラインや少しごつごつしたその指先に何かセクシーな魅力を感じているのも確かだ。
男を欲情させることを目的とした類の本に出てくるのはいつだって、華奢な骨格に乗った滑らかな曲線を描くライン、ひとたび指先で触れれば難なくその温もりに沈み込み、それにつれてとろけるような甘い声をあげるような、そんな女の子たちの肌を露わにしたその姿だ。ともすればグロテスクに思えるその肉と肉の混じり合いこそが男の(恐らく女の子にも)性的な欲求を喚起させるものとされているのだから、そういった物にあまり興味が持てない僕は少しおかしいのかもしれない。そんな小さな違和感に気づいたのは果たしていつだったろうか。具体的には思い出せないし、思い出したいとも思わない。
好きになった相手が好きだし、好きだと思うからこそ自然にもっと話がしたい、近づきたいと思う。体つき、声、仕草。構成する要素が魅力的であれば素直に良いとそう感じる、そこに体の性別がどうであるかは関係がない。ぼんやりと考えた結論はそうだ。
祈吏が魅力的だから、自然に好きになった。そのことは普通のことで、ちっともおかしくなんてない。
マーティンはとても魅力的だったから祈吏のことを好きなままでも、自然にその気持ちに答えたくなった。
気持ちに矛盾なんてどこにもない。ごく自然な感情の発露だ。無理矢理に言い聞かせるようにするけれど、それでも割り切れない感情はしつこく渦を巻いて、煮えきらない心にさざ波を起こす。
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