第1章

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 いっそただの性欲ならいいのにな、それなら若者らしいし。泡立つ気持ちを抑えるようにしながらゆっくり立ち上がり、CDプレイヤーの再生ボタンを押す。流れ出るノイズ混じりのギターが重なり合う音のおかげで、僅かに聞こえた祈吏の話声が、愛しい相手が笑う声がかき消されて、少しほっとする。 「女子の昔の体育着ってブルマだったって言うじゃん。あれさー、田舎の小学校とかだとまだ残ってるとこがあるらしいよ」 「まーじー。てかさ、やばくねソレ。別に俺ロリじゃないけど危険感じるわー」 「せーちゃん足フェチだしロリだもんねぇ」 「ばっかちげえよ、おっぱい星人のユウタにんなこと言われたくねえんですけど?」 「でもさぁ、ブルマってやっぱやばいよねー。寧ろなんであれが何十年も当たり前だったわけ? 俺、平気な顔で体育の授業受けれる気しねえもん」  潜めているつもりで、その実周囲にはまる聞こえの賑々しいそんな話題に女子は露骨に眉を潜めながらわざと大きめのサイズを選んだジャージの前をぎゅっと掴み、男子はと言えば同族嫌悪なのか何なのか、どこか苦み走った曖昧な笑顔を浮かべながらひそひそ話に夢中になる。  うるさいなぁ。それ、わざと女子に聞かせたくてしてんの? 冷めた気持ちをぼんやりと宙に浮かべたまま、次の時間の現代社会の小テストのことなど考えてみる。  体育の授業は先週から続く幅跳びのテストで、出席番号順に並んで男女交代で測定を受ける。本番に強いのか、練習の時よりもうんと軽やかに飛んで記録を出す者、助走を付けすぎてつんのめって転ぶ者、派手に頭から転んで砂だらけになりながら、それでも陽気にピースなんてして見せる者、それぞれの個性が出て案外面白い。 「次、佐伯文子さん」  何列か前の女の子は名前を呼ばれると澄んだ声で返事をして、すっくと立ち上がる。その動きに合わせて、高めの位置で結んだポニーテールが揺れる。 体育の時間になると髪の毛が邪魔になるからか、いつも髪をおろしている女の子たちはみんな、休み時間にこぞってお互いの髪を結い合う。シンプルにくくっただけの子もいれば凝った編み込みやまとめ髪にしている子なんかもいて、少しずつ雰囲気の違うスッキリしたヘアスタイルによって普段は隠された耳や首筋、うなじが露わになるその姿はなかなかに瞳を楽しませてくれる。
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