第1章

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あたらしい朝  オートロックのドアが閉まる音を合図にしたように、背中をぴったりと扉につけたままきつく抱きすくめられ、すぐに首の角度を傾けてぴったりと唇を重ね合わせられる。  三年ぶりに触れる身体、三年ぶりに触れる生ぬるく温かな吐息のその感触に、心臓を直接掴まれたみたいなぞわぞわとした息苦しさと甘い震えが全身を伝うのを感じる。  体重をかけるようにしながら忍び寄る舌がゆっくりと歯列をなぞるその間も、きつく抱きすくめられたまま、しなやかなその掌が身体の芯を辿るように洋服越しに背中から腰をまさぐる。その動きのもどかしさに、気が狂いそうになる。 もっと触ってほしい、もっと直により深く感じたい。口腔での戯れに応えるように舌を差しだし、きつく吸われながら鼻孔から吐息を漏らし、よくそうしたように、ふっくらとした唇を食むようにして、舌できつく吸う。  離れた年月のその隙間を埋めるように、必死に貪りあうように吐息を奪い合うそのうち、扉と彼の身体にぴっちりと挟まれているそのはずなのに、腰や膝が震えて力が入らなくなってくるのを感じる。崩れ落ちそうになる身体を腰に回された腕で支えられ、首筋に絡めた腕の力を強める。  ほんの一瞬唇を離して目をあわせれば、濡れたその瞳が、いつにない甘い息苦しさをはらんだ熱さでこちらを見つめくれているのが分かる。その瞳の奥にほんの一瞬見えた戸惑いの色が急に怖くなって、今度は自分から顔を寄せて、噛みつくみたいに乱暴にキスをする。  これじゃ足りない。これだけじゃ終わってほしくない。全てがほしい。この体中に満ちていく熱を受け止めてほしい。唇を離したその後、言葉にならないままただじっと見つめ返せば、どこか躊躇いの色を秘めたように見えたそのまなざしがそっと細められながら、濡れた唇を微かに震わせて、弱々しく言葉が紡がれる。 「……シャワーは?」 崩れ落ちそうな身体を支えるように体重を預けながら、僕は答える。 「いいよ後で、我慢出来ない」
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