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迷宮監獄のメルクマール 「起の章」
また、死から還った。
辺りを見渡し、私は思った。同じスタート地点だと記憶がささやく。
死という暗い底無しの虚無から還ったのに、またそれをなぞる現実に気づき、心の底から震えが湧いた。
ふと膝の力が抜けて、そこにへたり込んでしまった。
(落ち着いて……現状把握に努めるのが、ここから脱出する唯一の方法なんだから)
自分に言い聞かせるが、胸でせわしなく鼓動する音がそれを邪魔する。
(スタート地点に戻ったということは、1時間を超さないで死んだということね)
絶望と不安に震えて、思わず壁に寄り掛かった。ひやりとした感触が掌から伝わって、しんしんと心が落ち着く。
でも、それに心を委ねてはいけない。命まで奪われてしまうからだ。
ここは迷宮── 迷宮という名の監獄だからだ。
私の目の前には、白く高い壁が左右に立ちはだかっていた。その白い壁が延々と何処までも続く迷宮を構成しているのだ。
その頂上は3メートルくらいの高さか。とても手の届く距離ではない。
その表面は大理石のように白く硬かった。床も同じ素材らしく、気をつけて歩かないと滑るだろう。
壁の上まで登れば、出口が見つかるかも知れない。だけど、私の手には硬い壁に穴を穿つ道具がない。
唯一その手に持つのは、薄っぺらなスマホだけだ。
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