迷宮監獄のメルクマール 「起の章」

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 1時間後、つまり約0.0001年後、1万分の1年後の私から届いたメール。  その1万分の1という数字は、自動車事故で死ぬ確率と同じでもある。 『左に5、右に7、右に11──』  24と打ち直した下に、メルクマールが打たれたメールを読む。  何の感情も無い指標だけ打ってある。『頑張って』とか『挫けないで』といった、気の利いた言葉は無かった。 (その方がかえって良いかも)  私は迷いを断ち切って、再び立ち上がった。  迷宮監獄を抜け出すには、前に進むしかないのだ。それは人生と同じであり、人は皆、死に向かって歩くものだからだ。  創造主である神が人に与えた唯一の平等、それは絶対に死ぬという不文律だ。その不文律に逆らってきた私に、この迷宮監獄という死の罠が立ち塞がったのだ。 (今度も神を欺いて生還する。悪魔を出し抜いて生きるのだ)  私は二股に分かれた迷宮の道を、メルクマールに従って左に5歩進んだ。 (それにしても、この迷宮は誰が造ったのだろう?)  滑る床を忍び足で進みながら、今までに何度も考えた疑問が心をよぎる。  そして、そこに囚われた自分に恐怖して、心の底から怖気て震えた。  気を強くもたないと。恐怖はいつも忍び足で、心を追い詰めるものだから。
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