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歯の根が合わないほど慄き、手に持つスマホが可笑しいほど震えていた。
(どうして私が殺されなければならないの!?)
突如沸き起こる理不尽な疑問が、私の四肢ばかりか心までも凍りつかせた。
それがとても現実だとは思えず、すがるようにメルクマールのあるスマホの画面に視線を落とした。
『左に23、左に29、右に31──』
その無表情な記号が、まるで悪魔の呪文のように見えた。
(……これは本当に、未来の私が打ったものなのか?)
突然その疑念が、心を突き破って飛び出した。
『左に23、左に29、右に31──』
疑念に揺れる私を、メルクマールが嘲笑っていた。
(チェーンソーの鳴る音が近づいてきた)
けたたましいモーター音を響かせて、ひたひたと殺戮者が忍び寄ってくる。
(このメルクマールは、私を殺したヤツが打ったものかも知れない)
その疑いの心が、どうしようもなく頭をもたげる。
(私を狙う殺戮者の罠に、誘導されているのかも知れない)
その疑いの心が、疑念が、疑心が、猜疑心が、唸りをあげて近づいてくる。
チェーンソーを持って迫ってくる殺戮者が、はたして背後から追い上げてくるのか、それとも行く手で手ぐすね引いて待っているのか、四方を壁に囲まれた迷宮監獄で猜疑心の塊と化した私には判断できなかった。
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