第二章 「 女優の過去 」

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鳥は好きですか、と廉次。 「・・・そうですね。 山の上を沢山のセキレイが飛んでゆくのを、昔観た事があります。 あれは、綺麗でしたね。 濃い緑の山に、一瞬銃声がして、それに驚いたセキレイが、ね。」 「今度、私達の番組でやりますよ、秘境の幻の鳥を追うのを。」 「それはいいですね。 でも、私は、鳥を飼う趣味はないのです。」 岡山は名刺を見た。 廉次はもう一度、尋ねた。 「どうして、彼女は遺産を鳥に預けたんでしょうか?」 「そうですねえ・・・私も知りたいですよ。」 「不躾な質問ですみませんが、あなたが彼女の愛人だったのでしょ?」 「いいえ。 もしそうなら、遺言でもなんでも出てくる筈じゃないですか?」 「ですよねえ?すみません、ま、取材なんで。 でもこれだけはお答えいただきたい。 広崎さんの本当の愛人は誰だったんですか?」 岡山は意味ありげな目を廉次に向けた。 「そういうのを、死者を冒涜すると言うのではないですか? 彼女が残したものが、すべてでしょう。 何か確たる証拠が出てきましたら、お答えしましょう。 では、失礼いたします。」 岡山は杖をこつこつと突きながら、ゆっくりとドアを出て行った。 廉次は、手帳に岡山の名前を書いて、丸印をつけた。 (絶対に何か知っている目だ。あれが彼の演技だとしたら、どれだけ真実を隠しているのやら) 少し時間を置いて、次の人物がドアから現れた。 その男性は、でっぷりとして貫禄のある重役然としていた。 「こちらです、お待ちしておりました。 梶木(かじき)社長! お忙しいところ、ありがとうございます!」 「はあ、まあ、そんなことはいい。 なんだかうちの秘書が、意味がわからんことを口走ったんだが? 女優広崎の遺産がどうとか?」 「ええ、うちでこんど広崎さんの番組を企画していましてね。」 「なんで?」 「いや、鳥に遺産を譲るとかって話題、聞きませんでした?」 「聞いてないぞ?」 「そうですか、そういうことでお話を。」 「私は広崎のパトロンだったが、それを番組で流すつもりかね?」 「いいえ、そういうつもりでは」 「じゃあどういうつもりだ? 私はあの屋敷の権利を主張しようと思っていたんだが、弁護士に止められたんだ!いかにもあの弁護士らしい!」 「あ、先崎さんですね?」 「知っとるのか、あいつを?」 「いえ、正確には奥様の方ですけど。」
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