第二章 「 女優の過去 」

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梶木社長は、大判のハンカチを出して鼻をかんだ。 廉次は慌てず騒がずコップの水を飲んだ。 「社長、お飲み物を頼みますが?」 「ビールを頼む。」 「かしこまりました、ちょっと・・・」 ウェイトレスはすぐにグラスビールを持ってきた。 「ふう・・・それで、その遺産だが、一体いくらくらいだね?」 「わかりませんよ、それがわかれば、もっと皆が飛びつくんでしょうけど。」 「それは困る!」 「ところで、家の権利っていうのは、本当ですか?」 社長はその一件が気に入らないのか、話を逸らした。 「あんたがTV局のトップだから言うが、あの女優は・・・ どんな奴だろうと、鼻にもかけない、プライドのかたまりだった。」 「なるほど。 それじゃあ、社長が一番の愛人だったんですね!」 「そうとも!」 足がかたかたと震えている。 「ビール、もう一杯! 本当に、鳥に遺産をやるのか? あの鳥だらけの屋敷で、いつも付き人に掃除させてたな。 だがまさか鳥に、全財産をくれるほどの馬鹿とは思わんかった!」 「何か、広崎さんと鳥のことで、ご存知のことはありませんか?」 「コンゴウインコとかいったな、あのでかいの。 他の鳥は全部、ペットショップにやっちまって、あのでかいのだけ。 ずい分手がかかるとか言って、そのうち付き人もいなくなってたが。」 「遺産っていうのは、宝石とかですかね?」 「はあ?・・・は、はははは、そうかもな! 私はそんなものには興味ないがね。」 梶木社長は、もう出かける時間だと言って立ち上がった。 「ありがとうございました、また是非取材させてください。」 「昼間は忙しいから、今度は夜にしてくれ。」 「はい、是非!ありがとうございました。」 廉次は名前に三角を書いた。 どうもこっちが情報源にされそうだぞ、という意味。 本当に知ってるとしたら、遺産の中身について、かな。 でもそれだけは言いそうもないな、あの社長。 またドアから別の人物が現れた。 俳優の若野宮 孝(わかのみや たかし)60歳、現役の舞台俳優だ。 廉次が立ち上がって軽くお辞儀をすると、若野宮は深く帽子のツバを下げた。 「お忙しいところ、着て頂きまして、恐縮です、若野宮さん。」 「時間があまりないので、手短かでお願いします。」 「わかりました、あの・・・広崎さんとは恋人だと記事に書かれましたね?」 若野宮の顔色が変わった。
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