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「そんな大昔の話、何故調べているんですか?」
「あの、一応TV局の者で。」
名刺を渡すと、少し表情が和んだ。
「なんだ、よたろーTVさんでしたか。
私、そちらの夜の旅番組のナレーションさせていただいてますから。
・・・でも、広崎さんはお亡くなりになったんですよね。」
とっつきが悪いと緊張していたが、廉次はやっと説明できると思った。
「それがですね、謎の遺産問題がありまして。」
「遺産?彼女に遺産・・・ああ、そういえば、全財産を・・・」
若野宮は言いかけて、そこで止めた。
「そうなんですよ、それで」
突然、喫茶店の中が騒がしくなった。
女性達が若野宮に気がついたのだ。
「若野宮さんですよね?私、昔からファンなんです!
握手してください~~!」
いきなりスマホで撮影しそうになったので、若野宮は仕事なんでと
言って、皆を押しとどめた。
「すみませんが、今取材中なんです。」
廉次が女性達を柔らかい手つきで、ドアの方へと流すような仕草をした。
「ここから入らないでいただけますか?」
女性達はすみませんと言って、しぶしぶその場から離れた。
「広崎さんとは20歳は違いましたよね?」
「ですから、関係はないんです。」
「でも、よく舞台では共演されていた。」
「大女優ですからね、あの方は。」
「その後のご活躍を、嫉妬されたりしました?」
「誰に?広崎さんに?
いいえ、そんなことはないです。
今の私があるのも、広崎さんのおかげですから。」
「それじゃあ、家にもしょっちゅう呼ばれたでしょうね?」
「まあ・・・かなりお酒が強い方でしたから、お酒の相手ですよ。」
若野宮は帽子を被り直すと、飲み物を勧める廉次にかまわず、ドアを出て行った。
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