第二章 「 女優の過去 」

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カフェ・トリドリのマスターは、鳥の名前がコゼットらしい、 ということがわかり、教えてくれた男性に尋ねた。 「コゼットって、確かレ・ミゼラブルの」 「そうですよ、彼女は舞台の初演、それも初舞台で、見事に子役のコゼットを演じたと記事で読みました。 無名の子役が、舞台の話題をかっさらった、そんな見出しでした。 その後、回を重ねて大人になったコゼットを演じましたが、 その気高さにファンが急増したそうです。」 「私は、大河ドラマの役しか覚えていませんでしたよ。」 俺もマスターと一緒だった。 だから、コゼットという名前なんて、浮かんでこなかったのだ。 中年の男性はどうやら女優のファンだったらしい。 「そうですね、私も母の影響でしたから、昔からのファンではなくてね。 だから、あまり語るのもおこがましいのですけど。 母が最初に新聞に載ったのをスクラップしていました。」 「そのスクラップ、見せていただけませんか?」 「かまいませんよ、母の実家にまだある筈ですから、今度持って きましょう。」 「ありがとうございます、何かわかるかもしれませんね。」 男性はそれではと言って帰っていった。 俺は彩子が嬉しそうにコゼットちゃんに話しかけているのを見て 癒されていた。 「コゼットちゃん、よかったね、名前がわかって。」 「コゼットいいこ。」 「いいこ、いいこ。」 「トリネコいいこ!」 「うんうん、トリネコもいいこいいこ!」 俺はマスターが忙しく片付けているのを邪魔しないように、彩子が鳥かごの掃除している間、自分の水を持ってきて飲んでいた。 隣に座っている常連の女性が俺に話しかけてきた。 「レ・ミゼラブルって確か映画にもなりましたね!」 「そうですね、ミュージカルだった気がしますけど。」 「私、映画のレンタルして観ようかな。 マスター、ごちそうさま。」 カララン・・・ あの女性はきっと何かわかったらマスターに教えようと思っているようだ。 「マスター、コゼットって役はだいたいどんな感じなんですか?」 「だいたいって、まあ、私も詳しくないけど。 フランス革命後の話で、主役のジャン・バルジャンに助けられる少女だよ。 主人公は自分の為ではなく貧しい家族の為にパンをひとつ盗んで長年牢屋に入れられてしまうところから始まるのは覚えているけど。」
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