第1章

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「ホントウの暗闇」を見たことがあるだろうか? 大学の帰り、ふと思い立った疑問を僕は考える。 思い返してみると、夜道を歩いていて暗いと思ったことはあっても、本当に真っ暗だったということはないように思う。 今こうして歩いている道も、街灯に照らされて明るい。 街の中はどこもかしこも光に溢れ、暗闇なんか見つかりそうもない。 昼間の明るさとは違うけど、ここは確かに明るい。 それなら、郊外はどうだろう? 少し遠回りになるけど、僕は街を離れて夜の田んぼ道を歩いてみる。 季節は冬。 冷たかった空気の温度が一段と下がったように感じる。 冷たい空気の塊の中を歩く。 道を照らすのはわずかな電灯だけ。 それでもまだ道は見える。 暗闇にはまだ遠い。 遠くに黒い針の山が見えた。 森だ。 行こうかどうか少し迷ったけど、僕は歩を進め、森の中へと入っていった。 足元でガサガサと乾ききった枯れ葉が音を立てる。 辺りは何も見えないほど暗い。 真っ暗。 けど、空を見上げてみる。 澄んだ夜空に月と星が見えた。 ここもまだ暗闇じゃない。 しばらく経つと、雲が月と星を隠した。 今度こそ、ホントウの暗闇だろうか? ーーいや、雲がかかってるんだと分かるくらいには明るい。 不思議なことだけど、雲がかかっていない夜空の方が、その黒さは濃い。
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