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数刻後、俺とエクートは城へとやって来た。城門に着くと、俺達の姿を見つけた番兵のジムニーが敬礼をしてくる。
いい奴なんだが、どこか抜けている。今も着ている外套のボタンがひとつずつずれていた。
「おはようございます!」
「ああ、おはよう」
「ぅひぃっ!?」
笑顔で挨拶を返したら、化け物を見た時のような物凄い顔をして、ジムニーは俺を見つめる。俺が更に見つめ返すと、ジムニーは気まずそうに視線を逸らした。
「首、ボタンがずれてる」
鎖骨の辺りをトントンと指差しながら指摘する。不寝番の次の交代は昼食後だから、それまでに客が来たら笑われてしまうだろう。
「あひぃっ!クビだけはどうか勘弁を……!」
「は?」
「ひいいっ!!」
「……なんだ、どうしたんだ。あのさあ、別に俺は」
「いいよ、行こう」
よく分からないが、ジムは俺がクビ宣告したと勘違いしたらしい。慌てて誤解を解こうとしたが、エクートに腕を引かれた。
「なぁ……俺ってそんな容赦無い奴に見えるのかな」
「まあ、元々はね」
ガチガチと歯を鳴らしながら跪いて祈っているジムニーを脇目に、俺は首を傾げる。歩きながらエクートにそう訊ねると、エクートは謎の答えを返してきた。
「兵長、おはようございます。エクちゃん、おはよう」
エクート達の寝室まで向かう途中、今度は馴染みのメイド、シルフィに声を掛けられた。洗濯途中だったらしく、両手に大きな籠を抱えている。エクートは上の空だ。
「おはよ、シルフィ。今日も可愛いね。そこまで持とうか?」
「ひゃっ!?」
俺が挨拶した途端、シルフィがおかしな声をあげた。
「……兵長、ですよね?」
「ん?」
まるで他人を見るような目付きで俺を見ている……が、なんだか照れているようだ。
「そうだけど……何?」
目一杯の笑顔で返した。表情筋がひきつるような感覚があるが、なぜだろう。
「いえ、失礼しました!」
足音をたてて、シルフィは走り去ってしまった。
「そりゃあ誰でもそうなるよ」
エクートが呟く。イマイチ理解できない。
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