※ A ※

5/16
前へ
/271ページ
次へ
数刻後、俺とエクートは城へとやって来た。城門に着くと、俺達の姿を見つけた番兵のジムニーが敬礼をしてくる。 いい奴なんだが、どこか抜けている。今も着ている外套のボタンがひとつずつずれていた。 「おはようございます!」 「ああ、おはよう」 「ぅひぃっ!?」 笑顔で挨拶を返したら、化け物を見た時のような物凄い顔をして、ジムニーは俺を見つめる。俺が更に見つめ返すと、ジムニーは気まずそうに視線を逸らした。 「首、ボタンがずれてる」 鎖骨の辺りをトントンと指差しながら指摘する。不寝番の次の交代は昼食後だから、それまでに客が来たら笑われてしまうだろう。 「あひぃっ!クビだけはどうか勘弁を……!」 「は?」 「ひいいっ!!」 「……なんだ、どうしたんだ。あのさあ、別に俺は」 「いいよ、行こう」 よく分からないが、ジムは俺がクビ宣告したと勘違いしたらしい。慌てて誤解を解こうとしたが、エクートに腕を引かれた。 「なぁ……俺ってそんな容赦無い奴に見えるのかな」 「まあ、元々はね」 ガチガチと歯を鳴らしながら跪いて祈っているジムニーを脇目に、俺は首を傾げる。歩きながらエクートにそう訊ねると、エクートは謎の答えを返してきた。 「兵長、おはようございます。エクちゃん、おはよう」 エクート達の寝室まで向かう途中、今度は馴染みのメイド、シルフィに声を掛けられた。洗濯途中だったらしく、両手に大きな籠を抱えている。エクートは上の空だ。 「おはよ、シルフィ。今日も可愛いね。そこまで持とうか?」 「ひゃっ!?」 俺が挨拶した途端、シルフィがおかしな声をあげた。 「……兵長、ですよね?」 「ん?」 まるで他人を見るような目付きで俺を見ている……が、なんだか照れているようだ。 「そうだけど……何?」 目一杯の笑顔で返した。表情筋がひきつるような感覚があるが、なぜだろう。 「いえ、失礼しました!」 足音をたてて、シルフィは走り去ってしまった。 「そりゃあ誰でもそうなるよ」 エクートが呟く。イマイチ理解できない。
/271ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加