5人が本棚に入れています
本棚に追加
「……ゲン、ひとつ伺ってもよろしいでしょうか」
と、ようやくクーゲルは俺に問いかけた。
「なんだ?」
「チェルシーの事を覚えていますか?」
相変わらず、クーゲルの言う事は全然理解できなかった。俺は首を傾げた。
「なんだそれ。人か?」
「えっ!?どうして……ゲンが知らないの……?」
エクートが驚いたように声をあげた。まるで俺がそれに詳しいような口振りだ。人の名前か、物、あるいは土地の名前なんだろうが、頑張って思い出そうとしても、全然浮かんでこない。
「……分かりました。結構です」
案外簡単に諦めると、クーゲルは顎に手を当てて、考え込んでしまった。
「おいおい、お前から聞いといて「結構です」って何だよー。せめてそれが何かくらい教えてくれてもいいだろ?」
「チェルシーは……」
エクートが言い掛けて、俯いたまま、唇を噛んだ。
なんだか訊いちゃいけないことを訊いてしまったみたいだ。
「チェルシー……彼女は、私達の古い友人の名前です。だいぶ昔の話ですから、貴方が覚えていなくても当然ですよ」
エクートの言葉を継いで、クーゲルがそう説明した。
最初のコメントを投稿しよう!