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春のはじまりと同時に、私が生まれた。
土の中から、一生懸命這い出て、小さな緑色の手と頭を出し、ひょっこり生まれてきた。
「あら、可愛い新人さん。私はオオイヌノフグリ。アナタのお名前は何て言うの?」
そう話しかけてきたのは、淡い青の花弁を咲かせた、小柄なお姉さん。
「私は、タンポポです!優しそうなお姉さんが隣で嬉しいなぁ!」
心の底から思った本心を、彼女に告げる。
私を取り巻く環境は、生まれたその日から決まっており、変える事は出来ない。
そう、私はこの地で朽ち果てるまで、ここから動けない。
それが、土に絡み付いた根という足を持つ、動けない植物の宿命なのだ。
右側にいる隣人とは、うまくやっていけそうである。
左側の隣人は、どうだろうか。
「左隣さん、初めまして!」
そう言いながら横を向くと、やたら背の高いホッソリとした男性が目にはいる。
だが、顔つきは若く、背のわりにはわりに最近誕生した様に見えた。
「お名前はなんて言うの?」
「・・ギシギシ。」
彼はそう呟いた後、すぐ目を反らし、太陽を眺めはじめた。
どうやら、彼はとても無口なようだ。一方私は、口のムズムズが止まらず、生まれたその日から、気質上おしゃべりなのだと実感した。
正反対な私たち。
果たして、左隣さんと私は、仲良く出来るのだろうか。
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