28/77
前へ
/399ページ
次へ
引き寄せられるように、浩二は歩き出す。 『美月』に近付くにつれ、跳ねた鼓動が高鳴った。 瞳に映る『美月』は、目も、口も、肌の色も、美月と同じだ。 違うのは髪の長さくらいだけど、最後に会った時から美月が髪が伸びていたら、こんな感じじゃないかと思う。 浩二はベンチに座る『美月』の前で立ち止まった。 呆然と見上げてくる『美月』は、やっぱり美月にそっくりで、言葉にならない感情がせり上がる。 「……美月さん、ですか?」 尋ねた浩二の声は、自分が思っているよりも小さい声だった。 『美月』は呆然としたままで、なんの反応もない。 (……しまった、聞こえなかったかも) まわりのざわめきに掻き消された気がして、浩二は眉を下げる。 けど、もう一度言い直すのも躊躇われて、相手の出方を窺った。
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4688人が本棚に入れています
本棚に追加