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しばらく黙っていた浩二は、やがてぽつりと呟く。
「……俺も同じだよ。
フルールに登録した理由は、失恋したから」
「え……」
『美月』は、意表をつかれたように浩二を見た。
その顔は、複雑な心中を表すように、僅かに歪む。
「……そうでしたか」
「人それぞれだけど、理由なんてそんなもんだよね
現実はこっちの都合なんてお構いなしだから、なんとか折り合いつけなきゃいけないし」
言いながら、浩二は知らず知らずのうちに苦笑していた。
(………本当に)
現実は、ぜんぜん思い通りにならない。
もしも美月に出会うのが、健吾より先だったらと、きっと一万回は思った。
けど何度思おうと、現実に起り得ない。ただの空想だ。
しばらく押し黙っていた『美月』は、やがて視線を外した。
少し下がった眉で、どこか遠くを見つめる。
美月そっくりな横顔を瞳に映しながら、浩二の喉は苦くなった。
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